文筆業 中林 直樹氏 イヤホンシステムレビュー (KSE1500)
ホームリスニングの新様式に。デスクトップオーディオシステムの中核としての活用 - KSE1500レビュー
ベンチャー企業のような斬新な発想力と、それをオーディオプロダクトとして成立させてしまう技術力。KSE1500に触れると、シュアという企業の独自性に気づかされる。別の言い方をすれば、KSE1500は同社の象徴的存在のひとつなのかもしれない。そう感じた理由はこうだ。
まず、本機最大の特徴は、いわずもがなドライバーユニットをコンデンサー型としたところだ。その機構や内容は他項にあるはずだから、ここでは詳細に言及しない。僕が伝えたいのは、イヤホンやヘッドホンで瞬く間にトップランナーに躍り出たシュアが、敢えてこの形式にチャレンジしたこと。バランスドアーマチュア型やダイナミック型などを突き詰める一方で、8年以上もの歳月をかけ秘密裏に、そして虎視眈々と開発にいそしんだという。無論、コンデンサーはマイクロホン分野で培ったノウハウが活かされているのであろう。ただ、前述したように、イヤホンやヘッドホンでは一定の地位を確立していることを考えれば、新開発というリスクを背負い続ける必要はなかったはずだ。従来方式の延長線上ではなく、大げさに言えば、危険を冒してまでなし得たかったプロジェクトなのである。
さらに、コンデンサー型ドライバーを駆動するためには専用のアンプユニットが不可欠だが、本機はそこにUSB-DACを内蔵する。ここにもシュアの発想力の豊かさ、そして大胆さを感じた。サポート可能なデジタルファイルは96kHz/24bitまで。だが、この数値だけを見て、物足りないと判断してはいけないと思う。もちろん、もっと高いサンプリングレートや、DSDを受けてくれるにこしたことはない。ただ、レコーディングの現場ではスタジオ機材の環境、ファイルの扱いやすさ、さらには音楽ジャンルによる向き不向きなどの要因から必ずしも超ハイスペックでの録音がなされているわけではない。また、DAC側での処理にも負担が強いられ、たとえばバッテリーの持続時間にも大きく影響する。そして、結果的にではあるにせよ、従来のスペック偏重のオーディオシーンに警鐘を鳴らすという意味でもここは強調しておきたい。
iOSおよびAndroidデバイスとも接続可能で、イヤホン部は密閉型だからアウトドアユースも想定されている。だが、僕は新しいデスクトップオーディオシステムの中核として本機を活用してみたいと思う。パソコンとUSBを介したハイレゾファイルの試聴をメインとして、Apple Musicなどのストリーミングサービス(高音質サービスも含め、今年はさらに充実する兆し)やradiko、さらに映像コンテンツも楽しめる。しかも、内蔵のパラメトリックイコライザーによって、好みの音色に積極的に追い込むこともできてしまう。
また、アナログライン入力も搭載。小型のフォノイコライザーと組み合わせれば、アナログレコードもシンプルなシステムで楽しむことができる。アナログ盤の復権がいよいよ本格化しそうだが、それを再生するに相応しい低価格でデザイン性の高いモデルが続々と登場している。その脇にこのアンプユニットをさりげなく置く、なんてこれまでにはないスタイルが想像できる。ドライバーの軽さと薄さを最大限に生かしたイヤホン部は長時間のリスニングに適しているから、ホームリスニングのこうした新様式も容易に叶えてくれそうだ。
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