オーディオ評論家 角田 郁雄氏 イヤホンシステムレビュー (KSE1500)

今まで体験することのなかった情報量の多い音が聴ける - KSE1500レビュー

シュアは、世界で唯一無二のコンデンサー型イヤホン・システム、KSE1500を、8年もの歳月をかけて開発し、発売を実現した。

私は、長くコンデンサー型スピーカーを使用し、オープン型コンデンサー・ヘッドホンも愛用してきた。その大きな理由は、振動板が軽量で、スピーカーのキャビネットやヘッドホンのハウジングの力を借りずに、静電気の力だけで、駆動するからだ。このKSE1500においても、BAの磁気回路に頼らず、振動板を静電気による反発動作により、自然運動で動作させ、入力信号に、ほとんど何も加えず、音として出力できるところに大きな魅力を感じる。コンデンサー型は、再生する音源のアタックも強調せず、音の立ち上がりが自然で、今まで確認できなかった微細な音や豊かな倍音を再現し、音量を上げても歪み感が極小であることも大きな魅力である。しかも、音漏れのしない高遮音性も実現した。

内部には、イヤホンという極めて小さな筐体に収容するために、従来の考え方とは異なる、特許技術の「電荷振動をマネージするバックプレートが生成する静電界に囲まれた低質量ダイアフラム」を実現し、搭載したことに感激する。内部構造を見ることはできないが、精密感に溢れた構造となっていることであろう。また、世界で唯一無二のイヤホンを実現できたのは、シュアが長年、コンデンサー型マイクロホンを手がけてきた経験があるからだと思う。耳に馴染む装着感は、シュアの他のイヤホンと同様で、しなやかなケーブルが、もちろん採用されている。高品位なLEMOコネクターも使用する。

このKSE1500には、専用アンプが付属する。これは振動板に高い電圧をかけ、静電気を発生させる必要があるからである。さらに入力信号の音量を可変できる高音質アンプも内蔵する。それだけではなく、iPhoneなどのiOSディバイスやアンドロイド・ディバイスと直接、デジタル接続できるDA変換回路(DAC)を内蔵している。さらには、卓越したデジタル技術により、好みの音質を得ることができる4-bandパラメトリックイコライザー回路を内蔵するという、ユニークな回路を搭載している。

実際の再生プロセスでは、iPhoneからのハイレゾ音源が、付属のMicro-Bライトニングケーブルを経由して、デジタル処理部(イコライザー回路とDAC)に接続され、ほとんどダイレクトというほどの最短距離で信号がアンプで増幅され、イヤホンに信号が送られるので、音の鮮度が格別に高い。しかも、コンデンサー型なので、弱音から強音までのダイナミックレンジが広く、10Hz〜50kHzという広帯域と113dBという高い音圧の特性を実現したことが、素晴らしい。

実際にiPhoneを使って、ダイアナ・クラールのWallflowerを再生すると、驚くほど、空間が広く、発音や微妙な声使いを鮮明にしたヴォーカルが中央に定位する。真珠のように美しいピアノの音が空間に漂い、ステージの奥には、ストリングスの響きが美しく広がる。空間の再現性が高く、微細な音をクローズアップするので、演奏が実にリアルである。ピンク・フロイドの「対」を再生すると、ギターのリヴァーブに歪み感を感じさせず、リアリティーの高さを感じ、ドラムスの音圧感もかなり高い。背景のシンセサイザーの響きには、あたかもオーロラが展開するような、格別に広いイメージすら感じる。空間性もさることながら、音の透明度の高さにも感激する。

もし、クラシック音楽を愛好するなら、弦楽オーケストラの音を聴いて欲しい。アタック感が強調されないので、音の立ち上がりが自然で、音数が多く、豊かな響きが聴けるはずである。豊潤な響きの木管楽器、眩いほどの輝きに満ちた金管楽器の倍音にも感激することであろう。さらに目を閉じて、じっくりと聴くとイヤホンとは思えない広く、深い奥行きの空間性が再現されることだろう。再生する音楽から、今まで体験することのなかった、情報量の多い音が聴けることも、KSE1500の大きなアドヴァンテージである。

高級な質感のボックスには、高品位な専用革ケース、各種の接続ケーブルなどのアクセサリー・パーツが付属され、所有の喜びまでも感じさせてくれる。ぜひ、世界で唯一無二のコンデンサー型イヤホン、KSE1500の音と操作感を早々に、専門ショップで試してみて欲しい。