オーディオ・ビジュアル評論家 鴻池 賢三氏 イヤホンレビュー (SE112)

旬の音を最高に楽しむためのイヤホン
旬の音を最高に楽しむためのイヤホン – SE112レビュー

ShureのイヤホンはE2cから歴代製品を約10年に渡って愛用しています。イヤホン全体の変遷を振り返ると、主役はダイナミック型からバランスドアーマチュアタイプへと移行し、ハイエンドイヤホンという新しいジャンルも確立したように思います。しかし、その動きに刺激されたのか、最近ではまた、ダイナミック型もその特徴を活かした高音質モデルが登場し始め、ユーザーの選択肢がさらに広がりそうな気配を感じます。

今回出会ったSE112のサウンドは、敢えてポイントを絞るなら、低域の絶妙なチューニングが聴きどころ。E2cの面影を感じつつ、ダイナミック型の新しい時代を感じさせるものでした。まず、重厚でパンチのある低音は、SE215のスッキリと階調を正確に再現するモニターライクな音作りとは対照的に、最近の音楽傾向を捉え、ビートが楽しめるキャラクターに仕上がっています。決してブーミーという意味合いではなく、キレを伴ってリズムが心地良く感じられるもの。感度も良く立ち上がりが俊敏で、高域に遅れずに付いて来る低域が、ヴォーカルを肉厚に聴かせてくれるのも美点です。

ハイレゾ音源も意識して試聴しましたが、ダイナミック型とは思えない感度の良さで、ハイサンプリング音源ならではの立ち上がりを見事に捉え、ブレスにまつわる空気感までも生々しく感じられます。

総じて、これまで「Shure=モニター」という印象を持っていましたが、SE112に関しては、最新のサウンドを受け止める重低音再生能力や、ハイレゾ再生に相応しい全帯域におよぶ解像感など、トレンドを理解した上での「楽しめる音」に感じました。価格も手頃で、旬の音を最高に楽しむためのイヤホンと言っても良いでしょう。もちろん、ベースはShureクオリティーで、どんなジャンルの音楽も長く楽しめる好製品であるのは、言うまでもありません。新時代のダイナミック型イヤホンとして、今、最もおすすめできる製品の1つです。  

 

 

鴻池 賢三  (こうのいけ けんぞう)
鴻池 賢三 (こうのいけ けんぞう)

オーディオ・ビジュアル評論家。 AV専門誌で製品の評価や評論、音響や映像の調整方法について解説や執筆活動を行う。日本で唯一のTHX/ISF認定ホームシアターデザイナーでもあり、オーディオ・ビジュアル関連企業のコンサルティングを手がけるDAC JAPAN代表。 (http://www.dac-japan.com/)