音楽家&評論家 大塚 康一氏 ヘッドホンレビュー (SRH1540)

モニタリングでもリスニングにも、“確実”なヘッドホン
モニタリングでもリスニングにも、“確実”なヘッドホン - SRH1540 レビュー

今、巷に溢れるヘッドホンは、全体のレベルが上がってきたせいか良い音のするものが多い。しかし、素晴らしい音のヘッドホンはというと、極めて少ない。ShureのSRH1540は、そうした中で素晴らしい音質を実現したヘッドホンである。もちろん、いたずらにコストを掛けた製品ではない、という注釈付きでだ。

自分を含め音楽やオーディオを必須とする人間にとって、Shureは特別な存在感を持ったブランドなのは間違いない。LPレコードの再生には必ずと言っていいほど同社のカートリッジがストックされていたし、ライヴやレコーディングでは過去から現在に至るまで、同社のマイクは定番として欠かされることがない。ひとえに、その音質と信頼性の高さゆえだろうと思うが、優れた音の入り口=カートリッジやマイクを作るメーカーは優れた出口も作れるというセオリーがあり、SRH1540がそれに当てはまる。

CDプレイヤー(44.1kHz/16bit)、Mac(AAC 256kbps、Appleロスレス、192kHz/24bitハイレゾ、DSD)、iPhone(AAC、ハイレゾ/FLAC Player、DSD/Hibiki)で聴いてみたが、いずれも低音が実に厚く、しかも密閉型とは思えないほど軽快なサウンドだ。解像度が高いのにあくまで自然で、耳障りな部分はない。感心したのは、iPhoneに直接つないで聴いたような場合でも、充分な音量と音質が得られること。従って、感度やインピーダンスも適切だ。

ヘッドホンアンプやUSB-DAC全盛の今日だが、本来そうした余計な増幅部を介さずしてベストあるいはそれに近い音が再生できなければ、決して完成度の高いヘッドホンとは言えない、と私は思っている。基本性能が優れていて初めて、それらの機器を併用した時さらにベターな音が得られるからだ。現代の高級ヘッドホンにおいて、40mm口径のネオジウム採用ドライバーは特に強力なユニットではないと思うが、APTIV™(Victrex社開発の高機能ポリマーフィルム)製のダイヤフラムやポールピースに設けた通気孔、ハウジングの設計などが巧みなのだろう。

ヘッドホンは装着感も音質と同様に大切だが、本機では航空機グレードのアルミ合金やカーボンファイバー製のハウジングキャップを駆使しているからだろうか。大型のアラウンドイヤー型ヘッドホンとしては非常に軽く、アルカンタラ製イヤーパッドによるフィット感も絶妙なため、長時間に及ぶ試聴でも疲労感はほとんど感じない。

MMCXコネクターによる着脱式ケーブルは、コネクター部が回転可能なため耐久性などを危惧する人もいるようだが、音質面でのデメリットは特に感じなかったし、持ち運びや保管、リケーブル、メンテナンス面でのメリットが大きいと思う。「百聞は一見に如かず」というが、SRH1540の場合は「百聞は一聴に如かず」が適切だろう。モニタリングでもリスニングにも、まさにSure(確実)なヘッドホンなのである。

 

 

大塚 康一  (おおつか やすかず)
大塚 康一 (おおつか やすかず)

音楽家&評論家。 神奈川県藤沢市生まれ。4歳よりバイオリンの英才教育を受けたが、16歳でギターに転向。 ライヴ&スタジオワークや音楽学校講師を経て、現在は楽器を含む音楽/オーディオビジュアル/パソコンに関するマルチライター兼ミュージシャンとして活躍中。それぞれの分野での専門誌や一般誌、書籍、楽譜集を数多く手掛け、内外著名アーティストへのインタビューにも定評がある。趣味は中国武道(龍星館黒帯)、テニスなど。

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