オーディオ評論家 林 正儀氏 ヘッドホンレビュー (SRH1840/SRH1440)
ほぼ満点に近いといえるほど、要求を満たしてくれるヘッドホン - SRH1840/SRH1440レビュー
私がヘッドホンを選ぶ条件がある。側圧が適度でフィット感がよく、精密なモニタートーンをベースにしならもサウンド自体に活力やのびやかさがあって、音楽の再現力に富む製品であることだ。その点、シュアのSRH1840はほぼ満点に近いといえるほど、私の要求を満たしてくれる。
デザインはシンプルでさりげない。光沢を抑えたマットなテイストで、手に持った質感もすこぶるグッド。ベロア素材のイヤパッドがしっかりと、やさしく耳元を包み、いつまでも聴いていたいと思える好感触だ。そして一旦聴きはじめてみると、オープンタイプらしいヌケのよさと広々とした空間イメージで、どの楽曲も音のバランスとトランジェントが抜群。スピーカーに近い立体的な構成で、静かな木管のソロではじまり、ブラスや打楽器が炸裂する嵐のようなピーク音量までスムーズにつながってストレスがない。お気に入りの「春の祭典(EXTON盤)」を最後まで聴ききってしまったのだ。マーラーの長大なシンフォニー「復活」も同様。ジャズではマイルス・デイビスの歴史的名盤「ビッチェズ・ブリュー」もしかりで、強烈なリズムビートにもみくちゃにされながら大草原を駆け抜ける爽快感を味わった。まさに生命と哲学を感じる音!こんな体験はヘッドホンでは初めてといおう。
ソース音を余さずひきだしてくる点でも抜群のものがあり、これは左右のドライバー特性を揃える工夫や、ケブラー強化ケーブル(OFC)など、カスタム素材を活用した綿密な音のチューンの正確さの証明だ。それもただ厳正なだけでなく、音色がとても滑らかで繊細かつ暖かいのだ。ギター、弦、ピアノなどアコースティック楽器の柔らかな響きや空気感をアットホームな雰囲気で楽しめる。ネット配信では村治香織の「アランフェス」が多彩な音色と心にしみるハーモニーで心地よく、ボーカル系の表現力の高さは特筆もの。筆者が録音にかかわった「ブルージーMAYA~」は、声の陰影やニュアンスが断然すばらしく、生身のMAYAがそこで歌っているような生々しさにも感動した。
SRH1440はそのまま弟モデルにしたというより、もう少し感度を高めたキレと明るさのある表現だ。まるごと耳に届くようなダイレクト感や反応のよさはSRH1840譲りだが、ポータブル音楽プーヤーにマッチしたポップな音色と聴いた。中音域にハリがあり、インストルメント系の弾むようなノリのよさとクリアーなボーカルが好印象。低音域にも鈍さがなく、ドラムやベースなどドスっと腹にくるボトムののびや量感も申し分がない。どちらもオープンバックヘッドホンのおススメ製品だ。