オーディオ・ビジュアル評論家・音響監督 潮 晴男氏 ヘッドホンレビュー (SRH940)
SRH940について語る - オーディオ・ビジュアル評論家・音響監督 潮 晴男氏
シュアは米国を代表するトランスデューサーのメーカーである。トランスデューサーとは音響信号を電気信号に、電気信号を音響信号に変換する機器のことだが、この分野において輝かしい歴史を持つスペシャリストの集団である。アナログオーディオ時代には、レコードから信号をピックアップするカートリッジの名品を数々送り出し、多くのオーディオファンを唸らせる一方、レコーディングスタジオやライブコンサートになくてはならない高性能なマイクロホンのメーカーとして、ミュージシャンからエンジニアまでプロの世界からも厚い信頼を得てきた。
かれこれ30年も前の話だが、当時国内でも音楽番組には必ずと言っていいほど、ボーカリストが手にするダイナミック型のマイクロホンはSM58やSM53だった。その状況は今もって何ら変わらない。モデルこそ新しくなっているが、スタジオやコンサートでシュアのマイクロホンにお目にかからない現場はないからだ。
プロに徹した物作りは、ヘッドホンにも受け継がれているが、とりわけオーバーヘッド型のモニター・タイプは音質を確認するためのツールでもあるわけだから妥協は許されない。わずかなノイズや歪の発生も見逃すことなく、全体のバランスを聴きとる。そうした役割も果たさなければならないからである。だからSRH940は少しばかり大仰なデザインを纏っている。ぼくはある雑誌に無骨だとコメントしたが、それは必然か ら出た形であって、デモンストレーションのためではない。
このモデルは周波数レンジを広げさらにフラットな音作りがなされている。言い換えるならよりモニターライクななったわけだ。もっともこうした変化は前作の方が音にメリハリがあったと評される一因にもなっているようだが、ぼくはこのモデルの方が明らかに素直で聴き疲れしないサウンドに仕上がっているように思う。確かに低音域の量感はいくぶんおとなしいと捉えることもできるが、それはローエンドまで伸びていることの裏返しかもしれないし、音の階調というか音階の正確な再現はこのモデルの方がはっきりしている。音の広がりも豊かだしボーカルの息遣いやリバーブのかけ方も目に見えるようだ。モニター・ユースのヘッドホンだが、音楽の楽しむオーディオ用としての資質も十分に備えた製品である。
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