BOBO×ハマ・オカモト 実力派によるリズムセクションの即興演奏をSHURE BETAシリーズで録音
Shureの楽器用マイクロホンの定番アイテムであるBETAシリーズ。その魅力を最大限に引き出すためのスペシャルなレコーディングセッションを行った。出演ミュージシャンは国内インディシーンの伝説的バンド54-71のメンバーであり、現在ではMIYAVIを始めとした数多くのアーティストたちから信頼を得るドラマーのBOBO。そして、古き良きロックンロールの遺伝子を受け継いだ注目の若手バンド、OKAMOTO’Sの一員として活躍するベーシスト、ハマ・オカモトの2人だ。類い希な演奏力を持った2人による即興演奏をShure BETAシリーズのマイクを用いて録音。それに加えてSMシリーズのマイクもセッティングし、BETAシリーズの特徴をより明確に捉えるための比較も行った。ここではレコーディングセッションを手掛けたエンジニアの山本創氏の言葉を交えながら、録音の模様やBETAシリーズ、SMシリーズに対するインプレッションをお送りしていこう。取材・文 / 伊藤大輔 撮影 / 雨宮透貴
ライブハウスで録音することでBETAっぽい音のイメージを作った
レコーディングセッションを行ったのはスタジオではなく、新宿は歌舞伎町にあるライブハウスNINE SPICE。ドラムセットはステージではなくフロアに組み上げられ、ベースアンプはフロアを抜けた通路へと設置した。Pro Toolsやマイクプリなどの録音機材は同じくフロアの後方に置かれたが、この簡易的なレコーディングシステムでライブハウス録りするというアイディアは、山本氏によるものと言う。
山本:やはりBETAシリーズというと若いミュージシャンの方が、SMシリーズからワンランク上の音を目指したときの選択肢になっている印象がありますね。BETAシリーズは指向性が強いのも特徴ですから、レコーディングスタジオで録音するよりも、ライブハウスという環境で録音した方が、BETAっぽい音のイメージを出せるかなと思ったんです。SMシリーズでも録音してBETAと比較できるようにしたのも、両シリーズの違いを見せたかったのが狙いです。
まずはBOBOのラディックのドラムキットにセットされたマイクの内訳についてみていきたい。まずトップのLRにはBETA 181のカーディオイド(SMシリーズはSM81。以下の括弧書きはSMシリーズのモデル名を表記)、スネアにはBETA 181スーパーカーディオイド(SM57)、フロアタムとタム、ハイハットにはBETA 98 AMP/C(SM57)をセッティング。キックは胴内にBETA 91A(SMはなし)、フロントヘッドの穴にはBETA 52A(SM58)、さらにオフ気味でBETA 27(SM27)をセットした。
山本:トップマイクの指向性はカーディオイドでいきたかったので、BETA 181カーディオイドを選びました。タム類に使ったBETA 98 AMP/Cは、あれだけ小型でどこまで解像度があるのか注目していましたが、すごく良い印象でしたね。こういうコンパクトタイプのマイクって高域がクリスピーになり過ぎて、その場で鳴っている音と少しニュアンスが変わってしまうこともあるのですが、BETA 181はそういったこともなかったですね。スネアのトップとバックはどうしてもハイハットの音がカブりやすいので、BETA 181でカプセルはスーパーカーディオイドをセレクトしました。あとそれに加えてBETA 181はコンデンサーなので、ダイナミックのSM57と比べてどんな音になるか期待していたのですが、カブりも少なくてスネアの皮の振動が分かるほど、音も解像度が高くて驚きました。
キックのフロントヘッドにセットしたBETA 52Aは立ち上がりの早い低域が録れましたし、オフで立てたBETA 27とSM27では同距離でのカブリの具合を比較したのですが、やはりBETA 27はスーパーカーディオイドということもあって、カブりが少なかったです。BETA 91Aはしっかりキックのアタックを出してくれましたし、このように各モデルをうまく使い分けられるのもBETAの良いところだと思います。僕ならBETA 27とBETA 91A組み合わせでも良いキックの音が作れそうな気がしました。
マイクの特性を比較するため、できるだけノーマルなマイキングを心がけた
さらにBOBOが座る背面にはBETA 181カーディオイド(SM137)を2本用いて、XYセッティングでアンビエンスを収録した。これは普段から山本氏がよく用いる手法とのこと。
山本:普段だとドラムキットの前方からキックとスネアをセンターに見立ててステレオイメージを作るためにこのセッティングでマイクを立てることが多いのですが、今回は映像収録もあったので後方から狙っています。ちなみに前方から狙うとキックのシェル鳴りが出てきますが、後方だとキックのアタックが出てきます。アンビエンスといっても会場の特性がわりとデッドだったので、若干のアンビ感が入るという程度でした。BETA 181とSM137は同じカーディオイドコンデンサーですが、BETA 181の方が音が綺麗でレンジが広い印象がありました。また今回のマイキングに関しては、純粋にBETAシリーズとSMシリーズのマイクの特性を比較したいという意図もあったので特に変わったことはせずに、いたって一般的なセッティングにしています。
ハマ・オカモトのベースアンプには2本のBETA、SMマイクをセッティング。BETA 56A(SM58)、BETA 27(SM27)となった。
山本:SM58で拾ったベースアンプの音は良く耳にする安心感のある音で、BETA 56Aはよりファットでハイファイな感じがしました。BETA 27とSM27はいずれもダイヤフラムが大きいのでローエンドまで綺麗に拾えている印象がありました。BETA 27は指向性がスーパーカーディオイドなので、ライブハウスのPAマイクとしてベースアンプに立てたりするとカブリも減らせてより有効だと思いますね。
BETA シリーズの音はハイファイで、すごく今っぽい印象を受けました
レコーディングではBOBOとハマ・オカモトがお互いの音決めをしながら、軽いジャムセッションを行ううちに徐々にカタチになっていく。その後は2人でフリーセッションを数回行い、その中からベストなテイクを選んだ。演奏を終えたBOBO、ハマ・オカモトはBETAシリーズに良い印象を持っていたが、エンジニアの山本氏にとってBETAシリーズはどう写ったのだろう?
山本:BETAシリーズはスーパーカーディオイドでカブりの少ないマイクということは前々から知っていましたが、実際にレコーディングで録ってみると音の質感がSMシリーズとはまったく違うことを改めて実感できました。BETAシリーズはクリスピー過ぎないハイファイさがあって、音にちゃん実体がとある言うか。すごく今っぽい音という印象なので、ハイレゾ録音と組み合わせてもいろんなキャラクターを出せる気がしました。あとSMシリーズと比べるとやBETA 52A、BETA 91Aのように対応する楽器に特化していたり、BETA 98 A/CやBETA 98 AMP/Cのように省スペースで立てられるモデルがあったりとラインナップが豊富なのもポイントですね。あと、個人的にはBETA 181のようにカプセルを交換できるのは素晴らしいと思いました。
また、山本氏は普段からレコーディングやミックス時のモニターヘッドホンとしてShure SRH1840を愛用しているとのこと。最後にその所感を伺った。
山本:SRH1840はオープンバックタイプなので、一般的な密閉型のモニターヘッドホンと比べて低域から高域まで無理なく聴こえる感じがします。一番最初にテストしたときは閉塞感がまったく無く、ヘッドホンをしていないような感じがしてビックリしました。いくつかオープンバックのヘッドホンは試してみたのですが、SRH1840が一番しっくりきました。ミックスのチェックしているときにEQやコンプで低域をブーストしたときにも、自然に聴こえてくれるのも良いですね。あとは長時間聴いていても耳が疲れないのが何よりの魅力だと思います。
トップにはBETA 181カーディオイドをLRに1本ずつ水平方向に設置、さらにSM81を垂直にセットしている。
バスドラムに立てられた4本のマイク。左からBETA 27、SM27、フロントヘッドの穴にBETA 52、PG52をセット。
スネアのトップは手前にSM57、BETA 181スーパーカーディオイドを設置。スネアの上に置かれているのはShureのイヤモニであるSE535。
フロアタムには手前にSM57、その奥にはグースネックの小型コンデンサーマイクであるBETA 98 AMP/Cをセッティング。
ハイタムはフロアタムと同じマイクセレクト。手前にBETA 98 AMP/C、奥にはSM57。
ハマ・オカモトのベースキャビネットに設置されたマイク。左からSM58、BETA 56A、SM58、BETA 27をセレクトした。
バスドラムの中にはBETA 91Aを設置
スネアのバックはこちらも手前にはSM57をその奥にはBETA 181。ハイハットとのカブりを抑えるため、カプセルにはスーパーカーディオイドをセレクトしている。
ドラムセット後方からXY方式でセッティングされたXYマイク。上の2本はBETA 181カーディオイドで、その下はSM137を2本設置する。
実際のセッションシーンはこちら!
アーティストインタビューはこちら
今回のセッションをBETAとSMの両方で録音、サウンドを比較できる音源をつくりました。ぜひ聴き比べてみてください。(より良い音環境のため、ヘッドホンをご使用ください)
山本 創(やまもと はじめ) プロフィール
レコーディングエンジニア / PAエンジニア。
GATEWAYスタジオを経て、フリーランスに。
豪徳寺のスタジオを拠点に、セカイイチ、灰野敬二、マイクロコズム、吉田一郎等々、数々の作品に参加。
インストゥルメンタル・バンドnenemのギタリストとしても活動している。