ほな・いこか(ゲスの極み乙女。)with SHURE (シュア) PGADRUMKIT7
SHUREの楽器用マイクロホンPG ALTAシリーズのなかでも、ドラムのフルセット収録を想定したキット=PGADRUMKIT7の実力を探るべく、レコーディングセッションを行った。テスターには20代を中心に大きな支持を得る人気ロックバンド、ゲスの極み乙女。より、ほな・いこかを迎え、完全フリーによるインプロヴィゼーション演奏をPGADRUMKIT7のみを用いて、エンジニアの山本創氏とともにレコーディングを敢行。その模様を山本氏、ほな・いこかの言葉を交えながらレポートしていく。
取材・文・撮影: 伊藤大輔
レコーディングの模様を収録したビデオはこちら。
PGADRUMKIT7のレコーディングを行ったのは山本氏が所有するプライベートスタジオ。マンションの一室に広いエンジニアルームとレコーディングルームを併設し、Pro Toolsをベースに充実したモニター環境と多くのアウトボードを備えた本格的な仕様だ。「普段から使っているHAとモニターで、PGADRUMKIT7をテストしたかった」という発言からも、山本氏がPGADRUMKIT7に抱く期待が伺える。
ドラム録音にも対応するレコーディング・ルームには、ほな・いこかが所有するSlingerlandの1970年代のヴィンテージキットをセットアップされている。バスドラムの口径が小さめのシンプルな3点セットは「シンディ・ブラックマンが好き」という彼女らしいセレクトで、シンバルもハイハットやクラッシュ、ライドで異なるメーカーのモデルを使うというこだわりよう。キットの音について「ヴィンテージらしく音が散らばらなくてタイトにヌケてくれる」と語る彼女は、現場のサウンドチェックでは締まりのある打音を響かせていた。
Slingerキットが組み上がったところで山本氏がマイクを立てていく。PGADRUMKIT7は7本のマイクと付属のホルダーとリムマウントを同梱する。これらの付属品について山本氏がセッティングをしながら絶賛する。「スタンド数を減らせるし、セッティング時間の短縮にも役立つのは最高。おかげでマイクスタンドはオーバーヘッド用にロングを2本、キックとスネア用にショート2本の計4本で済ませられた」
各打点にセットしたマイクの詳細をついては写真をご覧いただこう。PGADRUMKIT7は2タム・キットでの使用を仕様を想定するため、PGA56が3本封入されている。今回持ち込まれたSlingerのセットはワンタム仕様なので、フロアタムのトップとバックにPGA56を使用した。
レコーディングはその場のノリでフリーに叩いたテイクを数パターン収録するといった手法を採った。ちなみにこのやり方は以前にSHURE BETAシリーズでハマ・オカモトとBOBOの演奏を収録したときと同じ。「私は小さい音のタイプのドラマーじゃないし、尊敬するBOBOさんをちょっとだけ意識しました」と語るほな・いこかは、アグレッシブなビートと発展性のあるソロプレイを即興で組み立てていく。「今回は演奏を聴いてもらえる環境が動画だったから、打点を叩いたときの“ガン”って音を、どう響かせられるかを意識して叩いた」そのどれもが力強いサウンドと構成力のある良い出来で、あとからのセレクトに困ったほど。彼女の本番強さ、ミュージシャンとしての優れた表現力が伺えた。
録り終わったセッションをスタジオで聴いてみると、パワフルで芯のあるドラムサウンド、手短にフェーダー調整しただけですでに整合性のとれたバランスに驚く。このサウンド、山本氏の耳にはどう聞こえたのだろう? 返ってきた答えは「PGADRUMKIT7は全体のバランスが良くて欲しい音がそのまま録れる」ということ。氏が各マイクに持った印象は以下だ。
「キックに使用したPGA52はカーディオイドモデル。こちらは80Hzと5kHz付近がブーストされ、200Hz~300Hz付近がなだらかにカットされた”すでにEQされた”ような特性で、録ったままでもキックらしい音が出た。同じくカーディオイドのタム用PGA56は、先述の52と比較するとフラット。タムのヘッドからアタック、胴鳴りまで欲しい中域がそのまま録れた。ボーカル/楽器用のPGA57はスネアに使用したが、6kHzあたりにピークがあるので表ヘッドを狙ったらうまくいった。ダイナミックタイプで6kHzピークは歌録りでも子音をうまく録れるのではないか。オーバーヘッド用のPGA81は同キットでは唯一のカーディオイドコンデンサーだが、低価格なコンデンサーに見られがちな3~4kHzの痛い感じがなく、上から下までフラットに録れるSHUREらしい音質」
山本氏が慣れ親しんだプロユースの環境にて、氏とほな・いこかに加えて取材陣が期待する以上のポテンシャルとサウンドを鳴らしてくれたPGADRUMKIT7。もちろんそのサウンドは、ほな・いこかの優れた演奏があってのもの。収録したその力強いサウンドは、同ブログのYouTubeでぜひ確認してほしい。録音を終え「キックやスネアがいい意味で近過ぎない音で、バランスが良く聴こえた。バンドのリハーサルやプリプロで使ってみたい」と語るほな・いこか、「価格帯から想定する期待を大きく裏切ってくれ、特に帯域に偏りもなく必要な音がしっかりと録れた。PA用の定番マイクを揃えるのと比較したら1/2くらいの予算で買える手頃さも大きい。これからドラム録りをしたい人には特にオススメしたい」と指摘する山本氏。プロエンジニアからだけでなくドラマーからも好印象を得られたのは大きな収穫であった。今回のレコーディングを通して、PGADRUMKIT7は簡単にセッティングできて、ドラムにとって欲しい音がそのまま録れるという“ユーザーを選ばない手軽さ”に、その魅力があることが分かった。
ドラムキットはすべてキャリングケースに入れて、簡単に持ち運びができる
ほな・いこか所有のSlingerのヴィンテージキットにセットされたPGADRUMKIT7。本文でも触れたようにキット付属のホルダーとリムマウントを用いることで、マイクスタンドの使用を最低限にまで抑えることができた。
キックにはPGA52をサウンドホール中央にセット。録り音そのままでキックらしい音色を得られた。
スネアの収音はPGA57を使用。ヘッドを狙ったセッティングで意図したサウンドを収録した。
シンバル収音用のトップにはコンデンサーのPGA81を使用。山本氏曰くフラットなレンジ感を持った音色とのこと。
タムのトップにはPGA56を使用。楽器/ボーカル用としてスネアに使用したPGA81に比べるとフラットな印象だった。
フロアタムのトップにはPGA56を使用。リムマウントで手軽かつ正確に打音を捉えるとができる。
こちらはフロアタムのボトムに設置したPGA56。持ち込まれたドラムセットがワンタム仕様だったので、フロアボトムにPGA56を流用した。