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オーディオ・エコシステム 第3回:スピーカー

マイクは音を電気信号へ変換する役割を担いますが、スピーカーは逆にその信号を再度音へ変換する働きをします。会議オーディオ機器それぞれが調和する「エコシステム」の中で、このことが不可欠な役割を果たすその理由を解説します。
June 18, 2020 |
オーディオ・エコシステム 第3回:スピーカー

遠隔会議は、仮に映像が途切れても成立しますが、一方音声はどうでしょうか?リサーチ結果では、IT部門の意思決定者のうち81%は遠隔会議の品質向上に最も大きく影響する要素として、音声を挙げています。音が良い時には、会議の音声という部分は特段意識されることがない一方で、悪い時は決して見逃されることはないものです。疲労の原因になるだけでなく、集中力や理解力も低下していきます。そしてそれは生産性の低下につながり、最終的には企業全体収益にも影響すると考えるべきです。

この連載記事は、オーディオ・エコシステム、すなわち会議用オーディオシステムの各機器がその性能を十分に発揮しつつ、互いに最適に調和する仕組みについて取り上げています。特に会議音響の目的である「明瞭で自然な音を実現する」上で、各機器がどのような役割を果たし、それが全体にとってどう重要なのかを解説したいと思います。

さて、遠隔会議、つまり映像と音声を使用する会議において、オーディオシステムの役割は会議室内の参加者の声を収音して相手側に送ることと、相手側の声を再生することです。今回はスピーカーの役割について取り上げます。

マイクロホンが音を電気信号に変換するのに対し、スピーカーは信号を音に変換し直します。研修や遠隔会議に使用される会議室では、サイズや意匠、音量、カバー範囲の観点から迷わずシーリング・スピーカー(天井埋め込み型)を選ぶということが少なくありません。しかし今はさらにその中でも、より高度な機能、設置と運用に手間がかからない仕様を備えたネットワーク・スピーカーに向かっています。

時代のトレンドは、より高度な機能、設置と運用に手間がかからない仕様を備えたネットワーク・スピーカーに向かっています。

スピーカーの音質

シーリング・スピーカーの基本的な役割は、何よりもまず音声を明瞭に再生するということは言うまでもありません。しかし、最近の会議空間ではさまざまなメディアコンテンツがますます多く使われるようになっており、人の声だけでなく音楽やその他のオーディオソースもよい音で再生できるスピーカーが不可欠になっています。そのため、声の明瞭度に最適化された周波数レスポンスだけでなく、さまざまなオーディオソースの音を心地よく聴かせることのできる十分なレンジをカバーする2ウェイ・ドライバーが必要になることもよくあります。

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増幅

スピーカーには必ずアンプが必要ですが、パワーアンプは場所を取る、AC電源が必要、熱を発するなどの問題がついて回ります。それに対し、Danteスピーカーはアンプを内蔵しており、PoEまたはPoE+により音声信号と同じネットワークケーブルで給電することができます。つまりこのDanteスピーカーはアンプを内蔵しているパワード・スピーカーであるわけですから、パワーアンプは不要になります。一般的な会議用途に必要な音圧レベルはPoE対応スピーカーでも生み出すことができますが、同じモデルでもPoE+対応にアップグレードされたものなら、もう少し大きめの音量が必要な部屋にも対応できる出力レベルが得られます。

信号ルーティング

標準的なシーリング・スピーカーには必ずパワーアンプを接続しなければならず、またパワーアンプにはオーディオミキサーからの出力を送る必要があります。これに対し、ネットワーク・スピーカーはオーディオネットワーク上のどこからでも信号を入力することが可能で、信号ルーティングの自由度は大幅に上がります。また、パワーアンプが不要ということは、ミキサー出力とパワーアンプ入力間、そしてパワーアンプ出力とスピーカー入力間の信号レベル調整も不要になるということです。

DSPユーティリティ

シーリング・スピーカーは、入力された信号をそのまま再生するだけのパッシブデバイスと考えられがちですが、音響システムの音に大きく影響することがあります。たとえミキサーやデジタル・シグナル・プロセッサー(DSP)で音声処理を行う場合でも、空間の一部エリアのスピーカー数台に個別に音質処理を加えたり、場合によっては個々のスピーカーごとに調整するのが望ましいケースもあります。その点、ネットワーク・スピーカーなら、外部DSP機器を設置・接続するコストや時間がかかりません。これは、IntelliMix®というDSPを内蔵するMXA910のようなマイクロホンと組み合わせた場合は特にそうです。

例えばEQ(イコライズ)は、近くの壁などからの音の反射を補正するのに役立つことがあります。またデジタル・ディレイは、発言者の声と口の動きがずれないよう同期させる時に使用しますし、リミッターは信号レベルが極端に変化する状況で音声レベルが所定の最大レベルを超えないようにすることができます。そして、シグナル・ジェネレーターまたはトーン・ジェネレーターは、システムを調整する際に信号パスの確認やスピーカーの識別、施工の確認などにかかる時間を大幅に節約する手段となります。

音声セキュリティー

Dante対応スピーカーは、オーディオのシグナルチェーン全域に渡って、強力なセキュリティーを提供することができます。Shure音声暗号化機能を使用すれば、オーディオチェーンの入口であるマイクロホンから出口であるスピーカーまでセキュリティーが確保されます。会議内容の秘匿性を気にするクライアントにとっては大きなメリットで、権限のない人間がオーディオ信号にアクセスすることはできません。

リモート管理

いかに先進的でハイテクな音響システムであっても、他のすべてのシステムコンポーネントと同様、スピーカーの機能状態を定期的にチェックする必要があります。ネットワーク・スピーカーはリモート管理の点でもメリットがあります。オーディオ管理ソフトウェアを利用することで、PCからリモートで各スピーカーが正常に動作しているか確認し、スピーカーがオフラインになった場合や何らかの対処が必要な場合はそのままエンジニアにメッセージを送ることができます。設置場所へ出向いてチェックする時間を省き、その分問題が起こった時の対処に回すことができるのです。

シーリング・スピーカーはこれまで注意を払われることが少なく、時として過小評価されていましたが、今やオーディオ・エコシステムのれっきとした一部です。ネットワーク接続や柔軟な設定ツールにより、単に音を鳴らすだけにとどまらない働きを発揮し、明瞭でなおかつ自然な音の実現に貢献することができます。

 

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Chris Lyons
Shureで30年に渡りマーケティングと広報畑を歩んできたベテラン。複雑な音響技術をクルマや食べ物に例えてわかりやすく解説することを得意としている。歌や楽器の演奏はしないが、代わりに同僚を笑わせる。

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