よくある質問(FAQ) マイク編
パフォーマンスの際に無くてはならない「マイクロホン」。今回はShure JapanのウェブサイトのFAQに寄せられたマイクに関する質問のうちアクセス数の多いものを3つピックアップしました。
パフォーマンスの際に無くてはならない「マイクロホン」。今回はShure JapanのウェブサイトのFAQに寄せられたマイクに関する質問のうちアクセス数の多いものを3つピックアップしました。
ハウリングの解決方法
質問:ハウリングの問題を解決するにはどうすればよいですか。
回答:プロオーディオにおける最もよく寄せられる質問の1つは、「どのマイクロホンを使用すれば、ハウリングが起こらないか」です。もちろん、そのようなマイクロホンは存在しません。ハウリングは、スピーカーの位置、マイクロホンの位置、スピーカー/マイクロホンの周波数レスポンス、部屋の音響特性など、さまざまな要因が絡み合って起こります。ハウリングは、持続的に鳴り響く音を特徴とし、低い振動音から耳をつんざくような甲高い音までさまざまです。部屋の音響特性に起因する反響や残響、グラウンド・ノイズや外部からの騒音とは異なり、同様の対処方法では対応することはできません。
ハウリングは、マイクロホンに入った音がスピーカーによって再生され、それがマイクロホンによって収音されて増幅が繰り返されることで発生します。マイクロホンに入った音によって引き起こされる発振は、ハウリングの典型的な例です。ハウリングを起こす最も簡単な方法は、マイクロホンをスピーカーに直接向けることです(試さないでください)。マイクロホンがスピーカーに近すぎる、音源から離れすぎている、あるいはマイクロホンの音量を上げすぎると、ハウリングが起こる原因となります。そのほかに、使用中のマイクロホンの本数、部屋の音響特性の悪さ、マイクロホンまたはスピーカーの不均一な周波数レスポンスなども影響します。
ハウリングを抑制する最も簡単な方法は、マイクロホンを目的の音源に近づけること。また、指向性マイクロホン(カーディオイド、スーパーカーディオイド等)は、ハウリングマージンが高いのが一般的です。オートマチックミキサーによって使用中のマイクロホンの本数を減らすことも、状況の改善につながります。マイクロホンとスピーカーは、なるべく離して設置するようにします。さらに、部屋に音響的な処理を施してガラス、大理石、木などの硬い反射面をなくします。
上記の対策を全て行っても改善されない場合は、イコライザーやオートマチックフィードバックリデューサーを使用します。サウンドエンジニアの間で一般的なテクニックとして、最初にハウリングを起こす周波数のレベルをグラフィックイコライザーで下げることでシステム全体の音量を稼ぐという方法があります。それにはまず、上記の対策を全て行った後、ハウリングが起こり始めるまでシステムの音量を徐々に上げます。その状態で、ハウリング周波数のレベルをイコライザーで約3 dB下げます。ハウリング音がうなり声のように聞こえる場合、250~500 Hzをカットしてみます。さえずりのように聞こえる場合は1 kHz付近、笛や金切り声のように聞こえる場合は2 kHzより上と考えられます。80 Hz以下または8 kHz以上でハウリングが起こることはまずありません。実際の出音を聴きながら音響システムのイコライジングを適切に行うには、慣れが必要です。最初のハウリング周波数を処理したら、次の周波数がハウリングし始めるまでシステムの音量を徐々に上げます。この手順を目的の音量が得られるまで繰り返します。ただし、イコライジングしすぎないように注意してください。イコライザーによるハウリング対策によって稼ぐことができるレベルは、せいぜい3~9 dB程度です。パラメトリックイコライザーは、初心者にとっては扱いにくいのが難点ですが、ハウリング周波数の正確なコントロールが可能です。グラフィックイコライザーが一定の周波数を一定の帯域幅でカットするのに対し、パラメトリックイコライザーは正確な周波数を設定し、フィルターの幅と深さを調整することができます。
オートマチックフィードバックリデューサーを使用すると、上記と同じ効果が得られます。オートマチックフィードバックリデューサーは、ハウリング周波数の検出およびカットを自動的に行います。使用上の注意点は、イコライザーの場合と同様です。オートマチックフィードバックリデューサーは、ワイヤレスマイクロホンアプリケーションに非常に役立ちます。ハウリングの除去にはマイクロホンの位置が非常に重要ですが、ワイヤレスの場合、演者が最適なマイクロホンの位置で演じ続けるとは限らず、演者がスピーカーに近づきすぎるとハウリングが起こることになります。その点、フィードバックリデューサーを使用すれば、人間のオペレーターよりも素早くハウリングをとらえ、除去することが可能です。
以上のテクニックを正しく実践すれば、ハウリングの除去に大いに役立ちます。ただし、イコライザーやフィードバックリデューサーのみに頼ってはなりません。ハウリングの原因はマイクロホンだけとは限りません。
マイクのクリーニング方法
質問:マイクロホンの汚れはどのように手入れすればよいですか?
回答:マイクロホンは、特にライブ演奏において使用の場合にはパフォーマンスで酷使されるため、グリルやウィンドスクリーンに唾液や口紅がつき、またライブ会場にありがちな煙草の煙の匂いを吸収することによって汚れが付着します。マイクロホンの定期的なお手入れはパフォーマンスを向上させるだけでなく、清潔さの面でもとても大切です。このガイドでは、簡単で効果的なお手入れ方法をいくつかご紹介します。
ダイナミック・マイクロホン
マイクロホンのお手入れの一番良い方法は、グリルを外すことです。大半のボーカル用マイクロホン(例:SM58、BETA 58A)のグリルはネジを緩めて外すことができます。グリルが簡単にスライドできない場合は、前後にゆっくり揺すりながら、カートリッジからはずすようにします。強く引き離すことはカートリッジが破損したり、マイクロホンからカートリッジが分離してしまう場合がありますのでおやめ下さい。
グリルを取り外すと、マイクにダメージを与えることなくマイクロホン全体を清掃することが可能になります。グリルに付着した汚れのほとんどは人体から発生したものであるため、水道水での洗浄で十分です。また、洗剤(食器用洗剤など)に水に加え薄めた溶液を使用すれば、消毒効果がありグリル内部のフォームウィンドスクリーンに染み付いた悪臭を取り除くことができます。グリルに詰まった口紅・その他の物質を取り除くには、毛質の柔らかい歯ブラシをご使用ください。一部のモデルではグリルからフォームウィンドスクリーンを取り外すことができますが、水での洗浄でフォームが傷むことはないため、通常は取り外す必要はありません。また、Shure のマイクロホングリルの大半は、ニッケル塗装されているため錆に強いのが特徴です。
最も大切な点は、再度付け直す前にグリルを完全に乾かすということです。ダイナミックマイクロホンは少量の水分には影響を受けないものの、マイクロホン自体は水に弱く、水気を含んだフォームウィンドスクリーンは悪影響を与える恐れがあります。グリルを乾かすには空気乾燥が最適ですが、弱風設定のドライヤーも使用することができます。ただしその際はウィンドスクリーン素材を熱で溶かさないよう、グリルにドライヤーを近づけすぎないようご注意ください。グリルが取り外せないタイプのマイクロホン(例:SM57、545)のお手入れには、さらなる注意が必要です。湿らせた歯ブラシを使用し、マイクロホンを逆さに持って、グリルを優しくこすります。マイクロホンを逆さに持つことで、過度の水分がマイクロホンのカートリッジに浸み込むのを防ぎます。SM58内部のダイヤフラムを覆うフォームを清掃する際にもこの方法が使えます。その際も、マイクロホンを逆に持ち、注意深くこするようにしてください。
何セットかのライブ演奏を行う場合は、それぞれのセットの間にマイクロホンを清掃するのが理想的です。水で薄めたマウスウォッシュ(リステリン、スコープなど)をご使用ください。歯ブラシを使用し、マイクロホンを逆さに持ち、マイクロホンのグリルをこすります。これにより、少なくともマイクロホンの消臭が可能です。なお、マイクロホンの清掃を始める前にサウンドシステムの電源がオフになっていることを確認してください。
ハンドマイクのクリーニング方法は以下動画でもご覧いただけます。
コンデンサー・マイクロホン
コンデンサー・マイクロホンは繊細なため、お手入れには水およびいかなる液体も使用しないでください。微量の水分でさえ、コンデンサー部分を破損してしまいます。グリルが取り外しできるマイクロホン(例:BETA 87、KSM9)の場合、グリルとフォームウィンドスクリーンは上記のダイナミックマイクの洗浄でご紹介した方法で洗浄することができます。この場合も、グリルとウィンドスクリーンをマイクロホンに付け直す前に完全に乾かすよう注意してください。グリルが固定されているマイクロホン(例:SM81、KSM137)のお手入れには、毛質の柔らかい乾いた歯ブラシを使用し、グリルを優しくこすります。付着物を落とすよう、マイクロホンは逆さに持ってください。また歯ブラシの毛が抜けグリルに入らないよう注意してください。この方法は、ラベリアおよびミニ・グースネックタイプのマイクロホンにも活用することができます。
コンデンサー・マイクロホンを酷使する場合、例えばボーカル用あるいは劇場での使用などの場合は、取り外し可能な外付けフォームウィンドスクリーンの使用をお勧めします。これによりマイクロホンを唾液や口紅などから守り、使用後には取り外して洗剤溶液で洗浄することができます。コンデンサー部には絶対に水分が入らないようにすることをお忘れなく!
ダイナミックマイクロホンは本当に大音量を収音可能か(最大SPL)
質問:ダイナミックマイクロホンで歪みなく収音可能な最大音圧レベルはどの程度ですか。
回答: 「ダイナミックマイクロホンで歪みなく収音可能な最大音圧レベルはどの程度か」という質問は、マイクロホンユーザーからよく寄せられます。Shure Engineeringでは、この質問に答えるために、代表的なダイナミックマイクロホンであるShure SM58を使用して実験を行いました。ほとんどの技術的事項と同様に、答えは単純ではありません。
基準として、人の耳が耐えられる限界は140 dB SPLです。人の声の最大音圧レベル(最大SPL)は、口から2.5cmの距離で測定した結果、135 dB SPLでした。キックドラムは、ペダルを思い切り踏むと140 dB SPLを超えることがありますが、実験では150 dB SPLを超えることはありませんでした。管弦楽器の中で最も大きい音が出るトランペットの最大SPLは、理論的には2.5cmの距離で155 dB SPLですが、高音域だけです。
ここで注意すべき点は、スピーチ、音楽、および騒音のエネルギー分布(音圧)が周波数によって異なるということです。例えば、人の声は100 Hz以下ではあまりエネルギーを生じないため、最大SPLの周波数は100 Hzより上です。実際にどのくらい上の周波数になるかには個人差があります。
過負荷を生じる可能性がある電子回路を内蔵したコンデンサーマイクロホンとは異なり、ダイナミックマイクロホンは、ダイヤフラムがマグネットポールピースなどの物理的なものに当たってそれ以上動けなくなると歪みます。ダイヤフラムの変位は周波数に依存し、ダイヤフラムの共振周波数において最大となります。そのため、SM58をはじめとするダイナミックマイクロホンの最大SPLは周波数に依存します。これは、低域の方が高域よりも低いSPLで歪みが発生することを意味します。
SM58の場合、最初に歪みが発生する周波数範囲は、ダイヤフラムの共振周波数に近い100 Hz付近を中心とします。100 Hzで測定した最大MAX SPLは150 dB SPLで、その瞬間のマイクロホンの電気出力は0 dBV(1.0 V)です。これはもはやラインレベルの信号であり、マイクレベル信号ではありません。
1 kHzで測定したSM58の最大SPLは約160 dB SPLです。これは、周波数が高くなるにつれてマイクロホンの感度が変化するためです。160 dB SPLでの電気出力は+10 dBV(3.2 V)です。
10 kHzでのSM58の最大SPLは180 dB SPLです。ただし、これは計算値です(Shure Engineeringには、こうした危険な大SPLを発生させる手段がないため)。ちなみに、NASAの報告によれば、スペースシャトル打ち上げ時の最大SPLは、10 mの距離で測定して180 dB SPL以上です。
20 kHzでは、SM58の周波数レスポンスが低下するため、最大SPL計算値は約190 dBとなります。しかし、194 dB SPLで音圧が標準大気圧の2倍(音波のピークにて)から完全真空(音波の谷)まで変化することを考えれば、もはや検討するまでもない領域に達しています。加えて、音源が音速で動かない限り、この強度の音波は発生しません。
要約すれば、適切に設計されたプロ用ダイナミックマイクロホンは、「通常」の状態で歪み点に達することはありません。プロ用ダイナミックマイクロホンで大音量の音源収音時に歪みが発生したとするなら、マイクロホンの電気出力によってマイクロホンプリアンプの入力がクリップしたことによるもののはずです(150 dB SPLでは、SM58の出力はラインレベルに達しています)。
この問題を解決するには、プリアンプ入力の前にインラインアッテネーター(パッド)を挿入するか、マイクロホンを音源から離す必要があります。一般に、音圧レベルは、距離が倍になるごとに6 dB低下します。