ナレーション録音入門ガイド
今回は最高品質のナレーションをレコーディングする基本について、フィルム、メディア、マルチトラックに関する知識をコンサルティング・ビジネスとして応用しているスヴェン・ローリック(Sven Laurik)氏にお話を伺いました。
聞き覚えのある声なのに、その持ち主の名前も顔も知らない、ということがよくあると思います。例えば、ジェームズ・アール・ジョーンズ(James Earl Jones)といえばCNNニュースやライオン・キングのナレーションを担当しているということをご存知の方もいるかもしれません。では5,000本以上の映画の予告編に出演している、轟くようなあの声の主は?ドン・ラフォンティーヌ(Don LaFontaine)という声優です。ご存知でしたか?
このデジタル時代において、ナレーターにはこれまでにない多くの機会が訪れています。待ち受けメッセージ、ビデオゲーム、オーディオブック、オンライン教材、ポッドキャストなどがナレーションの世界を完全に塗り替えたと言っても過言ではありません。コンピュータに直接接続できる高品質なデジタルマイクロホンと、無数にある無料レコーディングソフトウェアのおかげで、2、3の接続だけでナレーションをスタートアップできる、というほど手近なものとなっているのです。
今回は最高品質のナレーションをレコーディングする基本について、フィルム、メディア、マルチトラックに関する知識をコンサルティング・ビジネスとして応用しているスヴェン・ローリック(Sven Laurik)氏にお話を伺いました。彼は、これまでに得た数多くのボイスレコーディング・テクニックをまとめた入門書「Creating Voiceover Narration for Podcasts, eLearning, Video and Digital Media」の著者でもあります。
ここでは特に、最良のボイス・レコーディングを行うためにもっとも重要となる6つのヒントについて話していただきました。
1.最良のリーディングを心がける。そしてリラックスする。
朗読/リーディングのキーポイントは、「これはパフォーマンスである」と肝に据えておくこと。マイクを前にすると、ついついこの点を忘れてしまいがちです。適切な発音で、メッセージの内容に沿ったてアクセントを加え、最高のリーディングを録音することに集中しましょう。どんな理由であれ、この目的を忘れるとレコーディングの質に影響します。手直しについては、後の編集と修正段階でまた考えればいいことです。
自分自身の声の限界を知ることも大切です。声を維持できる長さは人によっては15分、他の人なら同じエネルギーレベルと音声特性でその2倍、など人それぞれです。また、レコーディングのキリのいいところで休憩を取ることも重要。ナレーターによって必要な休憩時間の長さも異なります。
2. マイクロホンからの適切な距離を決定する。
マイクロホンから離れすぎると、音声レベルにルームサウンドや背景ノイズが入りやすくなります。逆に、マイクロホンに近づきすぎれば、息がマイクロホンのダイヤフラムに打ち付けられてポップノイズが発生してしまいます。
適切な距離とは、通常マイクから15cm~30cmほど(マイクのタイプやスピーカーの特性によって異なる)です。また、マイクロホンを軸上の位置の軸からわずかに逸らし、口の真正面に向けないようにすると、マイクロホンのダイヤフラムに直接当たる息の量を減らすことができます。自分に見合ったセットアップが見つかるまでは時間をかけて試し、最良の声を録音できるようにしましょう。
3. ウインドスクリーンを使用してみる。
ウインドスクリーンにはメッシュ繊維を円形のフレームにかけてマイクロホンとパフォーマーの間に設置するタイプと、マイクロホンのグリルにフォームカバーをかけてパフォーマーのスピーチによる空気の動きの速さとエネルギーを減らすタイプがあります。ウインドスクリーンを使用する場合は、どこまでマイクに近づくと息がノイズになるかを試してみると良いでしょう。
4. 適切なマイクロホンレベルに設定する。
マイクロホン入力の設定が高すぎると、信号がレコーディングハードウェアまたはソフトウェアの許容量を上回り「クリッピング」が発生します。これはハードウェアやソフトウェアの許容レベルを上回る部分ごとに、レコーディングした音に歪みが発生することを意味します。
オーディオインターフェースにマイクロホン入力用の音量(またはゲイン)コントロールが備わっている場合は、メーターまたはその他のビジュアルがレベル超過およびクリッピング発生を表示するのが通常です。レコーディングソフトウェアにもメーター機能があり、適切なレベル設定に役立ちます。
適切なレベル設定を行うには、ナレーションと同じ状態(マイクロホンからの距離、声の大きさや発声のレベルなど)でマイクロホンに向かって発声し、レベルメーターの表示をチェックします。声の入力レベルが緑色の許容範囲の上限に収まっているかを確認してください。声が高まる部分で赤い範囲のレベルに達しても、クリッピング制限を超過しない限り許容される場合があります。希望するレベルを得られるまで、マイクロホンのゲイン/レベルコントロールを調整してください。
ミキサーを使用している場合、マイクロホンゲインの設定が必要なポイントが複数(入力、チャンネル、出力)になる場合があります。この場合はそれぞれのゲイン設定で、低すぎて後からゲインを上げることになったり、高くしすぎて後で歪みが発生したりすることのないよう注意してください。
5. 「楽器」をチューニングする。
ここで言う楽器とは、つまりレコーディングするナレーターの音声のことです。その他、レコーディングに影響するいくつかの点もご紹介しましょう。
一貫性: いくつかのレコーディングセッションを通してプログラム全体のナレーションを行うか、レコーディングした区分ごとに編集や修正を行うか、どちらの方法であっても声の質がすべてのセッションを通して一定であることが重要です。直前にレコーディングした区分のみの修正を行うという場合は、それ以前の部分をすべて聞きなおし、ペースや声のトーンに馴染んでおくようにすると良いでしょう。
ブレス・コントロール: レコーディングを再生した際に息継ぎ音が聞こえる場合があります。息継ぎ音の影響を抑える方法はナレーターとしての経験を積むほどわかってきます。また多くのレコーディングにおいては、気になる息継ぎの部分を編集でミュートまたは削除することが可能です。
ポップノイズ: 「パ行の破裂音」のことです。パ行(その他タ行、カ行、バ行、ダ行、ガ行)で始まる言葉の場合、マイクロホンのダイヤフラムに息が吹きかけられ、破裂音がレコーディングされてしまうことがあります。レコーディング進行中にヘッドホンでモニタリングするとよくわかります。発音をコントロールしたり、マイクロホンの角度を変えるかウインドスクリーンを使用するなどしてポップノイズを最小限に抑えるようにしましょう。
歯擦音: これはサ行の音が摩擦音を起こしている場合のことです。ナレーターと話し合い、多様な方法を組み合わせることで防止に努めましょう。簡単なソリューションのひとつとして、ディエッサーの使用が挙げられます。これは歯擦音の周波数レンジの強度を下げるようチューニングするイコライザーのことです。設定レンジ内の歯擦音がユーザー設定のレベルを超過するとプロセッサが作動し、該当レンジ内のその音の強度を自動的に低減します。
6. 良質なヘッドホンで声を聴く。
マイクロホンがレコーディング中に拾う音を確実に聴くことができるようにするため、台本用紙がガサガサいう音、外の道路を走る車の音、送風機が風を送る音など、ナレーションのレコーディングに不要な音を識別することができます。もしこのような雑音が入ってしまった場合は、編集処理や再レコーディングを行ってください。
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マイクロホン
KSM42 (※KSM42は国内在庫限りで完了となります。)
SM7B
SM27
MV51
ナレーション・スキル向上に関するスヴェン・ローリック氏のアドバイスはwww.eNarration.com をご覧ください。彼の著書「Creating Voiceover Narration for Podcasts, eLearning, Videos and Digital Media」の注文もサイト内で受け付けています。