映像制作をMOTIVマイクで~映画監督 永田琴氏インタビュー
子ども映画プロジェクト『えいがっこ』を主催する映画監督永田琴氏がMOTIVMV88とMVLを用いた撮影時のエピソードを推奨コメントで聞かせてくれました。
子ども映画プロジェクト『えいがっこ』を主催する映画監督永田琴氏がMOTIVMV88とMVLを用いた撮影時のエピソードを推奨コメントで聞かせてくれました。今回はさらに深く掘り下げて、MOTIVマイクの使用で『えいがっこ』の撮影現場や作品にどのような影響・効果が見られたか、映画監督としてMOTIVの今後の利用シーンをどのように考えるか等についてお話を伺いました。
インタビュー写真・取材・文:伊藤大輔
『シャンティ・デイズ356日幸せな呼吸』をはじめ、これまでに多くの映画作品を手掛けている監督であり、作家としても活躍する永田琴さん。近年は自身の創作活動だけでなく、子供たちに映像制作やコミュニケーションの楽しさを伝えるワークショップ「『えいがっこ』」も運営しています。『えいがっこ』は子供たちが感覚的に扱えるAppleiPadを用いて、脚本作りから撮影、編集まで、映像制作のすべてを体験できるワークショップ。ただ、これまで音声の収録で悩みを抱えていたそう。2016年に開催された『えいがっこ』より、ShureのMOTIVシリーズのMV88とMVLを導入し、音声の問題は無事に解決。ここでは永田さんに『えいがっこ』を通して子供たちに伝えたいこと、さらにはMOTIVマイクの可能性について伺いました。
―― 『えいがっこ』をはじめたきっかけは?
人ってある年齢になると、誰かに自分がやってきたことを引き継がせたいって思うようになるじゃないですか?私の場合、仕事で若い子と接するうちにいくつかの疑問が生まれたのがそう思ったきっかけでした。例えば、若手の助監督でも「どうしてこういうふうにしたいと思ったの?」って聞いても、ちゃんと説明できなかったり。役待ちをしている子役さんがずっとケータイを弄っている光景を見たり……何かにつけて“コミュニケーション不足”を感じることがあって。で、私の映画監督という仕事は、常にコミュニケーション力が問われるものでして。美術や小道具、衣装のひとつにしても「こういうシチュエーションだからこうしたい」って、私の考えとその理由を各担当者に伝えなければいけません。でも、そうやって何度も人と話して伝えるうちに、自分の考えがクリアになっていくこともあって。こういったやりとりが改めて大事なことだと気づいたんです。こうした私が日常的に行っている一連のコミュニケーション・ワークを、もっと有効利用できないかなと考えたのが、『えいがっこ』をはじめるきっかけでした。
―― それを子供のための映像ワークショップに生かしたという。
子供を対象にした映像制作のワークショップ自体は、以前からあるものですが、たいていの場合、映画はこうやって作るとか、カメラはこういうものがあって、アングルはこうで……という形式的な内容のものが多くて。でも、私はそういった類のやり方に興味はなくて。それよりもワークショップを通じて子供たちが映画監督をやることで、ひとつのことを考えて他人に説明する……そのきっかけになると思っていて。例えば、子供がゲームを買ってほしいときに、親に「何でこのゲームが欲しいの?」って聞かれて、「分かんないけど欲しい」ではなくて、「このゲームのここが僕にとって必要なことで……」というふうに、親に向けてゲームの必要性をプレゼンテーションできるようになる。私が普段、映画監督としてスタッフにしていることって、まさにこれと同じことだと思っているんです。自分と人との人間性の兼ね合いというか。もちろん急にできるようになるものではないから、訓練することが必要です。それをこのワークショップを通じて知ることで、子供たちの人生がもっと広がるんじゃないかなと思ったんです。
―― 子供が考える力を養うためのワークショップ=『えいがっこ』という。
そうです。「考えたことを人に伝える作業」を簡略化して、子供たちに伝えるにはどうしたらよいか、そんなことを思案しているときにAppleからiPhoneやiPadというデバイスが出てくるようになったんですよね。それでコンピューターがすごく身近になり、みんなが写真や動画を撮るようになった。でも、それをひとりの世界で完結しないで、友達と共有したりして、コミュニケーション・ツールにしてみませんかっていうのが、私が思い描いていた『えいがっこ』にピッタリきたというか。
―― iPhoneやiPadというデバイスありきのワークショップだった?
2012年に最初に『えいがっこ』を開催したときは、まだビデオカメラを使って行いました。さすがにひとり一台のカメラは用意できなかったし、一台のカメラを使うグループのなかで、リーダーシップを発揮する子がいて、そのなかで内気で遠慮しがちになってしまう子もでてきて…..というように、良くも悪くも小さい社会の順序が自然と出来上がっていたんです。その後、Appleさんから参加人数分のiPadを提供してもらうようになってからは、iPadだけで映像制作を完結できるようになり、途中でワークショップに飽きてしまう子もいなくなりました。ひとりに一台というやり方のおかげで、内気な子が思わぬアイディアを表現したり、より個々が才能を発揮できる機会が増えたと思います。
―― 『えいがっこ』のプログラム内容はどういうものですか?
テーマは「自分のプロフィール・ビデオを作る」ことです。子供たちには自分のことについて脚本を書いて、参加しているほかの子にインタビューをしてもらって、自分について語った映像を撮影し、自分で編集した作品をみんなの前で発表してもらいます。回数を重ねることでプログラムも改良していて、最近は事前に“自分ノート”というものを配布します。自分の好きな色や自分の好きな人は誰かなど、先に簡単な質問に答えてもらって、ワークショップではそのなかから面白い部分を広げていきます。ほかにもその日に起きたことを喜怒哀楽に分けたりして、自己分析をするクセをつけてもらいます。ワークショップの期間だけだと、自分の好きなこと、やりたいことが分からずに“うーん、どうしたらいいんだろう?”って、うなってしまう子もいるので、事前にウォームアップしてもらっています。
―― 2016年のワークショップから、Shureのマイクを導入したようですね?
はい。これまではiPadだけで撮影していたので、緊張してもじもじしゃべってしまう子の声がうまく拾えなかったり、環境音に会話の声がかき消されたりしていて。音声がちゃんと録れないのが悩みの種でした。2016年のワークショップが奈良県の明日香村で8月に開催することが決まって、ちょうど真夏の時期だし、絶対にセミがわんさか鳴いているねってことになって(笑)。そこで、Appleの製品と相性の良いマイクのメーカーをいくつか紹介してもらいました。私のほうでリサーチをしたらShureには直接iPadに挿せるピンマイクがあることを知って、”これだ!”って思ったんです。
―― 永田さんが選んだのはShure MOTIVシリーズのMVLとMV88でしたが、実際に使ってみての印象はどうでしたか?
結果から言うと完璧でした。撮影はセミがいなさそうな場所を用意していたのですが、タイミングが悪く、農薬散布と重なってしまって……でも、MVLを使ってテストで音声を録ってみたら、農薬をまく機械の騒音もほとんど気にならなく、しっかりと声が録れていて驚きました。それに、何よりも子供たちがピンマイクを付けられたときにちょっと嬉しそうで、”やらなきゃ”っていう気持ちになっているのも印象的でした。MV88は自作したペーパー・オルゴールの録音に使いました。iPad付属のマイクで録音していたときは、オルゴールの音色に環境音が混ざってしまっていたのですが、MV88を使うことで綺麗に録音でき、編集でBGMの音量を調整して雰囲気を出すということもできました。
―― 音声のクオリティが向上したことで、前回までの『えいがっこ』と変わった部分はありましたか?
私として興味深かったのは、音声が綺麗になったことで自分について語る子供たちの緊張感……例えば、声がうわずったりするところまで聴こえてきたのは、やはりマイクのおかげでとても新鮮でした。あと、子供たちも音声がしっかりと録れることで、ちゃんと声が聞こえるところと聞こえないところの区別がちゃんと理解できました。例えばMOTIVのマイクを使わずに撮ってしまって、ちゃんと音声が聞こえなったところに、編集で字幕を入れてフォローをしてきた子がいて。ちゃんと聞こえる部分があると、聞こえない部分が、子ども達でも、ストレスに感じ始める。それは今回のワークショップがはじめてでしたね。
【ビデオのご案内:撮影時のエピソードを音でご確認いただけます】
撮影時のエピソードを音で体験していただくためのビデオをご用意しました。実際の「えいがっこ」作品の中からいくつかのシーンを抜粋したものです。より良い環境で聴いていただくためにヘッドホンの着用をお奨めいたします。
各エピソードについて詳しくは推奨コメントをご覧ください。
―― 今後、MVLとMV88をどんな現場で使ってみたいと思いましたか?
今度、とあるアーティストのミュージックビデオ(※)を制作するのですが、そのなかでMOTIVマイクで声を録って使いたいと思っています。普段、音声を収録する場合、録音部に機材を持ってきてもらうのですが、MOTIVシリーズのマイクは『えいがっこ』で使ってみて、いい音で録れることが分かっているので、今回は試しに自分だけでやってみようかなと思っています。こういう製品は撮影のフットワークが軽くなるのが一番のメリットなので、もっといろんなシチュエーションで使ってみたいですね。
※栞菜智世さんのミュージックビデオ「Heaven’s Door ~ 陽の当たる場所」での音声パートはMV88で録音しています。
―― ご自身の映像制作で、iPadやiPhoneを使って撮影することはありますか?
はい。例えば撮影スタッフを全員連れていけないシチュエーション、大きなビデオカメラでは撮れないような画角もiPadやiPhoneだと撮れますね。ほかにも自分のiPhoneなどで旅行先で撮影した素材を使ったりとか、そういうちょっとした絵が作品全体に効くことってあって。そういうときにMOTIVシリーズなどを使って音声も録っておけば、もっと手軽に撮影する機会も増えると思います。
―― MOTIVシリーズはどんなユーザーに向くと思いましたか?
やっぱり音楽にまつわる使い方ですよね。例えばライブハウスで演奏しているシーンを収録するときもMOTIVなら綺麗に録れるし、例えばキャンプ場なんかでアコースティックのライブなんていう場合も、機材を担いでいく必要もなく、手軽に撮影できますよね。あとは子供の映像を撮影したいっていう親御さんにもいいと思います。私ならドキュメンタリーの映像制作に使いたいですね。旅行先や車のなかでのインタビューなどで、サッとマイクとiPadなどを出して、綺麗な音で録れるっていうのは魅力ですね。