ボーカル vs 周囲の音響 – マイクの音被りトラブルシューティング

ボーカル vs 周囲の音響 – マイクの音被りトラブルシューティング

シェアする Facebook Twitter LinkedIn

ボーカル vs 周囲の音響 – マイクの音被りトラブルシューティング

Facebook Twitter LinkedIn

今回は、ShureのエンドーサーでもあるMaroon 5のツアーを長年担当してきたオーディオエンジニアたちと一緒にこの問題についてご紹介したいと思います。

過去数十年の間にサウンドデザインは大きな変化を遂げてきました。PAシステムはより軽量で効果的、小型で大音量を実現できるようになっています。このPAにおける背後から入る音声に対する背面遮音量は素晴らしく、メインPAからの遮音が必要なステージ上のパフォーマーたちにとっても嬉しい性能です。

それでも、もしアーティストがその「安全」エリアから出て歓声を上げるファンたちのそばへ、またはPAの正面へ飛び出して行ってしまったら?エンジニアはアーティストたちが自分自身の音を聴くことができるよう当然ゲインを最大限に引き上げてサポートしますが、これはまるで音の戦場で仕事をこなしているようなもの。

私はエンジニアリング業界ではまだまだ初心者ですが、エンジニアがどのようなことに対応しなければならないかは十分理解しているつもりです。そこで今回は、ShureのエンドーサーでもあるMaroon 5のツアーを長年担当してきたオーディオエンジニアたちと一緒にこの問題についてご紹介したいと思います。モニターエンジニアのケビン・グレンディニング氏とFOHエンジニアのジム・エブドン氏が、観客の大歓声と戦う毎晩の経験から得たヒントやトリックについて話してくれました。

 

Ryan


ライアン:まずこの問題に馴染みがない読者の皆さんのために、観客の歓声がボーカルマイクに被ってしまう状況について説明してもらえますか?

 

Kevin

ケビン(モニターエンジニア):これはライブサウンドのミキサーにとっては本当に大事なトピックですね。Maroon 5のライブの場合、ミュージシャンのうち少なくとも常に一人はPAの正面にいるんです。このぐらいだとスタッフも何とかできる範囲で、さほどイヤーミックスの邪魔にもなりません。例外はアダム(アダム・レヴィーン、ボーカリスト)だけでしょう。その程度のレベルを超えて、PAのある舞台前方から舞台奥へ、そしてさらに正面へとアーティストがマイクを持って移動すると、本当に大きな差が出てきます。PAの被りが起きると耳をつんざくような被りから始まって、屋内の残響音が混ざりあい、一点から波が伝わってくるため距離が増すごとにタイムがぼやけてベースのディレイが生じます。

 

Ryan


ライアン:コンサート中に観客の歓声がボーカルマイクに被る問題にはどう対応しているのですか?

 

Kevin

ケビン(モニター担当):一番の対処法は、チャンネルの送りや、マイクのプリ/入力トリムを最小限に保つことですね。ただし、メンバーがファンに近づいたりステージに戻ってきたりしたときなど、歓声はもっと激しくなりますからこれには注意が必要です。微妙なバランスなんですよ。デスクからのFXをなくしてPAと会場から聞こえてくる音をしっかりと聴き、ミックスの方向性が完全にかき消されてしまわないように努めるんです。オーディエンス用マイクも使用しますが、これはほとんど曲中の掛け合いのときだけですね。アダムは特にステージ前方での掛け合いが大好きですから。私たちが使っているインイヤー(JH-Audio モデル:Roxanne)は-24dBの遮音性能を備えているので、これがしっかり耳にフィットしているなら、オーディエンスの音をいくらか送って観客との一体感を損なわないようにするわけです。

 

Jim

ジム(FOH担当): PAシステムの正面に来そうなボーカリストのためにまず私がやっておかなければならないことは、ハウリングを起こさずにどこまでボーカルの音量を上げられるかを見極めることです。まずケビンと私でPAを”大音量”にして会場の定在数を探ります。ケビンにマイクをサウンドシステムに向けてもらい、ステージ上を動き回りながらわざとフィードバックを起こしてもらうということをよくやります。たいていはこれでハウリング前にどれだけのヘッドルームがあるかがわかります。この後、PAで必要な周波数調整をして、可能な限りヘッドルームを拡大します。アダムの歌声は特に力強いので、大幅にカットする必要はないんですよ!

 

FOH担当のジム・エブドン氏(左)とモニター担当のケビン・グレンディニング氏(右)

 

Ryan

ライアン:観客の歓声はアダムの邪魔になりますか?それとも彼はインイヤーモニターで観客の声が少し聞こえるほうが好きですか?

 

Kevin

ケビン(モニター担当): あちらこちらを確認して、彼のミックスに観客の声が入りすぎていないかは確認します。特にショーの冒頭は、耳も静かな楽屋にあってフレッシュな状態ですから注意しますね。最近ソウルのオリンピック・アリーナで公演したときは、観客の声が大きすぎてルームマイクはショーの間ほとんどミュートにしたままでした。PAよりも観客の声の方が大きかった瞬間さえあったんですよ。ジムは静かでソフトなタイプのミキサーというわけでもないのにね。アダムからの強いリクエストは、自分はバンドの一員なのだからバックボーカル(ボーカルピッチ)、キーボード、ギター(キーレジスター)、ベース、キック、スネア(リズムとタイム)すべての音を聴きたい、ということですね。

 

Ryan

ライアン:アダムはもう何年間もPAの正面で歌い続けてきたアーティストです。スタッフもそれをわかっているわけですから、もちろんコンサート前のサウンドチェックでこのような状況を軽減するための方法はいくつかとっているはずですよね。それはどのようなプロセスなんですか?

 

Kevin

ケビン(モニター担当): ジムと私で毎日、音出しとその反応を見る標準的な手順を繰り返します。基本的には私がこのガラガラの低い声でマイクに喋りかけ、HFを最大限に鳴らして、彼がその日のリミットがどのあたりかを確認する、ということですね。スカイボックス、スコアボード、ドレープのない背景セクションなどはすべてその日のサウンドに影響しますからね。どこで音が反射するか、どこで音が分散するか、すべて物理的なことです。サウンドチェックにはバンドは参加しないのが普通ですから、彼らは開場前にジムと私が音に関するすべての準備を整えていると信頼しているわけです。空調がオフの誰もいないアリーナで良い音の状態に設定すると、観客が入って室内温度も20度台になると、すべてが引き締まって、その前にSM58で最大に鳴らしたときよりゲインが1-2dB上がってきます。

 

Jim

ジム:ボーカルのEQには注意しています。アダムの声のサウンドを変えることなくミックスにブレンドさせたいわけですが、大音量下でも、リードボーカルのサウンドはクリアかつナチュラルで、聞きやすくなくてはなりませんからね。

SM58 のカプセルが元でPAに問題が起きることはないんです。観客の歓声なんですよ!彼の声よりもスネアドラムや観客の声が大きいなんていうことも決してまれではありません。小さい会場(企業向けのショーやイベントなど)では彼の声よりドラムの方が大きくなることがありますが、これはプレキシグラスを使用して補正できます。でも18,000人が叫ぶ歓声にはさすがに太刀打ちできません。

バーチャルサウンドチェックを使えば、リードボーカルチャンネルだけを上げて歓声の一番大きい部分を聴くことができます。これはもちろんショーのありとあらゆる瞬間で起きますし、避けられることではありませんが、EQにより彼の歌声に影響を与えずに歓声を少しやわらげることができます。ステージを歩き回ったりPAの前に出てくるボーカリストの場合、予測の利くSM58はとにかく安定して使いやすいマイクロホンです。これに勝る商品を探すのは難しいでしょうね。いろいろなマイクを試してみましたが、結局はいつもこれに戻ってきます。アダムの声に合ったマイクなんですよ。